涙はどうして流れるんだろう?
あるいは、どういう時に流れるんだろう?
昔、僕がまだ女の子に触れると鼓動が早くなった頃、僕はまだ泣き方を知っていた。
十数年が経って、僕は色々な経験をした。色々なモノを得た。手にした。同じくらいの数のモノを失った。手から落としていた。
きっと、僕はそこで涙を失ってしまったんだろう。あるいは、泣く方法を書いたメモを失ったんだろう。
よく云われる言葉。
「君はもっと笑った方が良いよ」
僕が女の子と寝た次の日の朝、その女の子は布団にくるまりながら、そう云った。
あるいは好意で云ったのかも知れない。でも、僕はそれに何て答えたらいいのか判らなかった。ただ僕は困惑し、天井を眺めた。
「ねえ、怒らしちゃったらごめんね。ただ、昨日出会ってから、君は一度も笑わなかったから」
僕は十時間弱、一度も笑わなかったんだろうか。判らない。少なくとも、その女の子に判るように笑ってはいないと云うことだろう。
「どれだけ飲んでも、表情が変わらないんだね、君って」
そんな事はない、昨夜はとても楽しかった。僕はそう云いたかった。でも、僕の口からは何の言葉も出なかった。
「いつもそうなの? 友達いる時とか、恋人といる時とか、ヒトリでいる時も笑わないの?」
どうだろう? 僕は笑うのだろうか? 友達といる時は笑う。たぶん。
「友達となら、たぶん、笑うよ。でも……」
「うん……」
「恋人といる時とかヒトリの時は、たぶん、笑わない」
その女の子は少し考え、云う。
「どうして? 恋人といるとつまらないの?」
「そんな事はないよ、たぶん。ただ、僕が、あるいは恋人が求めているモノは、笑うって事じゃないと思うから」
「じゃあ、恋人が笑わなくても……良いの?」
「どうだろう? 考えた事ないな」
「それはきっと、君の恋人がいつも笑っているんじゃないのかな? だから、君はそれを当たり前として何とも思っていない」
「ねぇ、別に云う必要もないんだろうけれど、今の僕には恋人はいないよ。全部、過去を思い出して話しているだけ」
「ふ〜ん」
「まあ、どうでも良いけれどね、そんな事」
僕の話を聞いているのか、突然その女の子は云う。
「じゃあさ、私と君は今から恋人ね」
その女の子は微笑みながら、僕に視線を向ける。
僕はどうしたら良いのか判らず、タバコに手を伸ばす。
「ねえ、タバコ止めたら? 何にも良い所ないでしょ?」
その発言のお陰で僕は、少し冷静さを取り戻す。
「手持ち無沙汰の時に役に立つ」
「えっ?」
「タバコが」
「そう?」少し疑わしそうに、その女の子は云う。
「でさ、そろそろ君の名前を教えて貰って良いかな?」
そう僕とその女の子は、お互いに名前すら云っていない。
「私は、ナオコ」
「僕は、シンジ」
「じゃあ、シンジ君。質問です」今知ったばかりの、名前を早速使って、その女の子は云う。
「君はどんな時に笑って、どんな時に涙を流しますか?」
続く。 |